
トレドはマドリードから南へ50キロ。古くは西ゴート王国の首都でイスラムに征服されたのち11-16世紀にはスペインの前身カスティーリャ王国~スペイン王国の首都(王宮所在地)だった。
トレド・アランフェス宮殿一日観光をタクシーと交渉してマドリードを出発。タクシー運転手にしか見えない自称詩人は道すがら工業団地や新興住宅地のなど積極的に説明する。スペイン語はさっぱりわからず、それにひるむことなく説明は続き、家族の座る後部シートに移りたい。

1時間ほどでトレドに着いた。タホ川がUの字型に湾曲した直径1キロほどのトレドは。中世の建物が残る観光の宝庫で、小道に冬のか細い日がさす。
遠目からも目立つアルカサル(城塞)は、20世紀の内戦後再建された。これほどの量塊を瓦礫にした戦争の威力に驚くとともに、もっと華奢な建物が多くの残っているのが不思議。戦とは言え軍事施設を壊し、文化財は残す意図があったのかもしれない。

中世がワープしたようなこの街で『大聖堂』(カテドラル)が一押し。スペインの3大聖堂に数えられ(他はブルゴス、レオン)パリのノートルダム寺院と同じフランス・ゴシック様式である。1227年着工1493年竣工した後も増改築が続き、当初のゴシックからデザイン的にも混迷を深めることになったのは、当時イスラムとの接点だったスペインの宿命であり面白いところ。
繊細なファサードを眺め、向かって右の『獅子の門』から入ると礼拝堂。スケールの大きい身廊と側廊の典型的な教会配置の左側にスペインの教会によくある矩形平面の回廊が加わる。エル・グレコ等の絵画がある聖具室を見ていると、「この絵を描いた人は犯罪者でしたが、匿われてこの絵を描きました」日本人ガイドの説明が聞こえる。気がつくと外では石畳を小雨がたたく。

トレドからマドリードへの途中、タホ川上流に『アランフェス宮殿』がある。イスラム追放(レコンキスタ)以降防御が不要になり、優美さ第一に作られた最初の王宮とも言われる。夏の離宮であり、ロドリーゴ作曲のアランフェス協奏曲(どんな曲か忘れたが)でも知られる。郊外にある王宮はグレーの空をバックに競う相手も無くバランスの良い優美な姿形で堂々構え、増築された両翼もしっくり馴染んでいる。
勝手に回れず、「人が集まったら」と言われて閑散としたロビーでしばらく待ってスペイン語ガイドと回る。イスラムの蜂の巣天井の部屋、中国風の部屋、白い壁に極彩色の焼き物がべったり飾られている部屋など個性的な空間が並ぶ。しかしスケールは現実的で冷たく古びて、英国ブライトンで離宮を見た時の印象を思いだした。離宮は王宮以上のスケールや派手さがあってはいけないのかもしれない。そして夏の離宮は夏訪れるべきかもしれない。

名称 (様式等) : トレド大聖堂 (ゴシック様式)、アランフェス宮殿 (バロック様式)
場所 : スペイン、トレドほか
設計 (竣工年) : ? (トレド大聖堂:1534年)、(アランフェス宮殿:1560年)
訪問日 (評価) : 2002年12月27日 (74点)